読み書きの力と、他人の考えを理解する課題の成績に関係があるという研究を読みました。「Literacy predicts performance on a second-order false-belief task」という論文です。

そこで気になったのが、心の理論を調べる課題には、他人の考えを推測する以外に、どんな働きが関わっているんだろう、ということです。

論文を見ていくと、感情ストループ課題も使われていました。

私は以前から、二次誤信念課題の入れ子構造やストループ課題、そして視覚と聴覚の同時協調について、自閉スペクトラム症に関係があるのではないかと、個人的に考えていたことがあります。

今回の研究がASDや視覚と聴覚の同時協調を直接調べたわけではありませんが、その話ともつながりそうなところがあり、とても気になりました。

読む力と、他人の考えを考える課題

今回読んだのは、2026年9月にPLOS ONEで公開された研究です。対象はトルコ語を母語とする成人女性76人で、読み書きの経験が乏しい人と、子どもの頃から読み書きをしてきた人を比べています。

使われたのは「二次誤信念課題」。たとえば「Aさんは、Bさんが何を知っていると思っているか」を考える課題です。登場人物の思い違いも含めて、それぞれの立場を追う必要があります。

物語は研究者が読み上げ、絵も使っています。参加者が自分で問題文を読む試験ではありません。

それでも、単語を読む流暢さと、この課題の成績には強い関連がありました。論文では、成績のばらつきの約49%を読む流暢さが説明したと報告されています。これは、読書をすると能力が49%上がる、という意味ではありません。

表情と反対の感情を答える

もう一つ、反応を抑える力を調べるために使われていたのが、この研究で「感情ストループ」と呼ばれている課題です。

一般的なストループ課題では、文字の意味を無視して、文字が何色で書かれているかを答えます。たとえば、赤色で「青」と書かれていたら、「赤」と答えます。文字を読む反応に引っ張られず、色を答える課題です。

一方、今回の感情ストループ課題で行うのは、表情を見て反対の感情を答えることです。

  • 😊を見たら「悲しい」
  • 😢を見たら「うれしい」

色と文字を使う課題とは、形式が違います。

これを見て、他人の考えを推測する課題にも、少し似たところがあるのではないかと思いました。

自分は本当のことを知っていても、登場人物は知らないかもしれない。自分の知っている答えに引っ張られず、その人が知っている範囲で考える。

表情につられず反対を答えることと、何か共通する働きがあるのでは、と思ったわけです。

ところが、結果は単純ではありませんでした。

読む流暢さと、この感情ストループ課題の成績には有意な関連がありました。しかし、読む流暢さなどを考慮した分析では、感情ストループ課題の成績が、誤信念課題の成績をさらに説明するという有意な結果は得られていません。

また、読む流暢さと誤信念課題の成績のつながりを、抑制する力が仲立ちするという結果も、探索的な分析では確認されませんでした。

つながりそうだと思ったけれど、この研究では、そのつながり方は確認できなかった。

そこが、かえって気になりました。

「わかる」の中を、もう少し分けてみたい

私は普段から「電気ケトル」と呼んでいるのに、時々その名前が出てこず、お湯を沸かす道具だという説明だけはできる、という状態があります。

これは、ストループ課題で文字を読んでしまうこととは別の観察ですが、読み書きに関わっているかもしれません。

「読むとき・書くとき」の違いと、「視聴覚で捉えて名前を呼ぶとき・情報を使って説明するとき」の違いには、何か対応があるのではないか、と個人的に考えました。

これは私自身の仮案です。今回の研究で、この対応が調べられたわけではありません。

今回の課題でも、話を理解する、登場人物が知っていることを覚えておく、立場を混ぜずに考える、答えを言う、といった働きが関わりそうです。

「どこが難しいとコミュニケーションに影響するんだろう。」

私が気になったのは、そこでした。

今回は、まだ疑問のまま

今回、有意な追加の説明力が確認されなかったことから、抑制する働き全般が無関係だとまではいえません。研究者は、使った抑制課題が一種類だったことなどを限界として挙げています。

また、情報を一時的に保って扱うワーキングメモリは測定されていません。読む流暢さと教育歴も強く結びついていて、それぞれの影響は切り分けられていないそうです。

一方、言語の理解を確認する質問にはほぼ満点で答えられていたので、「話が理解できなかっただけ」と決めるのも早そうです。

心の理論という一つの名前がついていても、課題に答えるまでには、いろいろな働きを使っているのかもしれません。

自分のストループ課題でのつまずきが、他人の考えの理解とどう関係するのかは、まだわかりません。

今回は、そんなところが気になったニュースでした。


参考:Gedik, T. A., De la Garza, V., & Dabrowska, E.(2026)“Literacy predicts performance on a second-order false-belief task.” PLOS ONE, 21(9), e0357313.
論文を読む

ストループ課題の説明:NIDA Data Share — Stroop Color Word Task